2012年6月3日日曜日

200912 虚空座標


冬至
夜が最も長い日。(@北半球)
この日を境に太陽が力を取りもどす一陽来復の日。(@北半球)

池袋ショー後のちょっと特別な日には、気合いを入れた石を取り上げたくなります。
ここ数年は、その時期に心惹かれた「おお!」という石を登場させてきましたが、今回は心惹かれたというか……惹かれたいることは惹かれているんだけれど、どちらかというとこのタイミングでいっちょまとめておこうかいという、タイミング重視の石。

レインボー水晶(インド産)でいってみたいと思います。


※……グレードの高いものには手が出ないので手頃グレードで。きれいなものはもっと鮮やかに虹が出ます。

池袋ショー以後、ネットで見かける機会がぐぐっと増えました。
私は実物を手に取る機会がありましたが、ネットで見かける説明をざっと見渡してみると、情報が古いもの、説明不足のもの、いろいろ気になるところもありまして、ここで一つまとめておいた方がいいのではと考えた次第です。

この石については、天然未加工なのか、加工ものなのかで説が分かれていて、私も完全には決断を下しかねています。
今の時点でまとめておけば、また、新たな情報が集まるかもとの期待もあります。(情報募集中!)

まずは、現在ある情報をまとめてみます。

●名前
この水晶には、現在統一した名前は付けられていません。
最初に入荷したショップでは「レインボー水晶」という名称で呼んでいますが、これでは従来のクラックに虹がでる水晶と混同してしまうため、ショップによって「レインボー・ロータス・クォーツ」「イリデッセンス・クォーツ」「虹彩クリスタル」「天然オーロラクォーツ」「セブンカラー・ストーン」などと独自の名前で呼び始めています。
たいてい、最初に見つけたショップの名称を見て「コレは虹彩水晶というのか!」……と頭に焼き付いてしまうケースが多いと思いますが、正式名称はなく、ショップごとに独自ネーミングをしている段階です。
今後ヒーラーなどが別の名前を付けることも考えられます。

●外見
外見は、ブラジル南部~ウルグアイ産のアメジストのような短柱状。。
要するに結晶のとんがり部分だけが群れたような「つくつくタイプ」のクラスターです。

そのつくつくクラスターに「虹」がでます。

名前が「レインボー水晶」と言うくらいですから虹が出るのは当たり前ですが、この名前と「虹」という説明でいろいろ誤解を招いている面もあるようす。

まず、虹、レインボー・クォーツというと内部のクラック(ひび)に虹が出るものを連想しますが、この石の虹はクラックの虹ではありません。


↑のような、虹が写っている写真を見ると、アクアオーラのように人工的に金属を表面に蒸着させたものや、あるいは天然の状態で薄い酸化被膜ができて虹色に見えている水晶と間違われますが、このような被膜系の虹とも違います。

この「レインボー水晶」は、石の内部に、ファントム状に虹が出ます。
皮膜状の虹がファントムになっている感じです。

このレインボー水晶、見た目は申し分なくきれいなんですが、どうにもこうにも写真に撮りにくい!

虹が出ている結晶をアップで撮ってみました。

虹が結晶面の一層下に出ているのがおわかりいただけるでしょうか。
また、結晶面と同じ形で、結晶面と平行に出ていることから、クラックによる虹ではないことがわかります


誰が糞甲虫の名前

●タイプ
よく見ると、いくつかのタイプがあります。
虹の出方の多い少ないもありますが、私が見たところでは、

(a)色がグレーっぽく、結晶が大粒
  このタイプは虹が深めに内包されて、虹がファントム状になっていることがよくわかるタイプですが、数は少なめ。

(b)色は無色~クリーム色、結晶は小粒
  このタイプは虹の層が浅めで、ほとんど結晶表面が虹色に輝いているように見えるので、一見すると表面蒸着系レインボーに見えます。
  今回池袋ショーで見かけたのは大半がこのタイプ。

レインボー水晶は、だいたいこの2タイプに分けられ、少数派タイプとして

(c)無色、小粒結晶、虹の被膜はけっこう深め

(d)淡いアメジストタイプ
  他のものが形は「つくつくタイプ」アメジストに似ていても、色はほぼ無色であるのに対し、淡いアメジストの色をしているものもあります。

(e)母岩に色が付いているタイプ
  水晶の下の母岩が灰青色~濃灰色のカルセドニー系であるため、結晶に色が付いて見えます。
  濃い色をバックにしているため、虹色が映えます。結晶は中くらい~小粒め。

(f)細かいドゥルージータイプ
 

があります。

ただし、私が見るところでは、ウルグアイ~南ブラジルのアメジストにも大粒、小粒、色の濃淡、母岩の瑪瑙層の厚さに差があるように、同じような環境で結晶した水晶のバリエーションの範囲内だと思われます。

●虹の特徴

最初は、表面蒸着系の虹が内包されたものかと思っていました。

天然の状態で表面に薄い酸化皮膜ができて虹色に見える水晶があります。
 
(↑上の二つは、表面に酸化皮膜が付着して虹が出ている水晶です)

天然のアクアオーラとも言うべきものですが、さらにその上に結晶が成長したら、今回の「レインボー水晶」のようになるのでは?……と考えたのですが、違うようです。

なぜなら、「レインボー水晶」の虹にはこのようなものがあります。

酸化被膜による虹であれば、このように面の一部、しかも面のふちだけが虹色になるとは考えにくいです。
(一番最初の写真も、面のふち部分がレインボーになっているタイプです)

また、アクアオーラを思い出してもらえばわかるように、酸化被膜による虹ならば、結晶全体が虹色になります。
しかし、「レインボー水晶」の虹は、どうも一面おきの錐面に虹が出ているようす。
(そのせいで、虹が出る面が限られ、しかもバラバラなので写真に撮りにくいのです)

 

これも酸化被膜の虹では考えられないことです。

●虹のしくみは?

では、この虹の仕組みは?

今回新たに発見されたとのふれこみでしたが、1980年代にすでに同じような虹彩を持つアメジストが発見され、論文も発表されています。

※棗さんのブログに論文へのリンクが紹介されています


完璧主義の発達理論

私のあやしい英語力&ネット情報によると、「双晶による微細なファントム状のラメラ構造」が虹のメカニズムではないかと思われます。
ウルグアイなどでも同じような仕組みでイリデッセンス(虹色の効果)を持つアメジストが見つかっているようで、その仕組みは今も研究中だとか。(詳しくは※棗さんのブログで)

論文の原文(PDFファイル)
参考(海外サイト)
概要を紹介しているサイト(ショップ)

しかし、双晶で一面おき、ラメラ構造……とくると、思い浮かぶのが「ブラジル式双晶」です。(以下は想像です)

水晶には結晶の螺旋構造が右回りと左回りのものがあり、右回りと左回りの水晶が結晶軸を共有して重なって結晶した……一つの結晶に見えて実は双子結晶……ものがブラジル式双晶です。

ブラジル色双晶を輪切り状にして調べると、右水晶か左水晶かいずれか一方の部分と右と左が入り交じった(双晶した)部分が交互に入り交じっていて、その特有な組織の代表例はブリュースター・フリンジと呼ばれます。

概要図に表すとこんな感じです。

図はアメトリンものなのですが、こちらの方が色がわかりやすいと思います。
図では、紫の部分がしましまになっています。
これは専門的には「ブリュースター・フリンジ」と呼ばれるもので、このしましまの部分が左水晶と右水晶が交互に重なっている部分、黄色い(アメトリンの場合はシトリン、写真の石の場合は薄い色の部分)が単結晶(右か左のどちらか)なのだそうです。
肉眼ではこのようなしましまは見えませんが、特別な方法で見るとこれが見えるのだそうです。

複数のサイト様が指摘しているように、この「虹」はレインボー・ガーネットの虹にも似ているようです。
そして、その仕組みはラメラ……薄い層が幾重にも重なった構造によるものです。

ブラジル式双晶では、このラメラ構造が一面おきに現れているわけなので、「レインボー・水晶の虹の現れ方と合致します。

●加工? 未加工?
問題なのがここ。
今回のレインボー水晶登場直後から、加工されているのか未加工天然ものなのか、諸説紛々、私もあっちむきこっちむき、「え?」「ええ?」「そうなの!?」と右往左往。

私の身の回りでも加工派、未加工派両方いらっしゃいます。

まず、天然未加工派の意見。

根拠1:先に挙げた論文の存在。
根拠2:虹が内部に発生している(人工的な蒸着ではない)
根拠3:鑑別書が出ており、「天然」と書かれている

ここで私見。この鑑別書は日本彩珠宝石研究所で発行されたもので、私もそれを見ています。
そこには、虹の位置(内部であること)から天然の要因由来であると思われるが、現時点では詳細不明(原文そのままではありませんが)というようなことがかかれており、人為的に何か加えて出した虹ではないかもしれないけれど、全く未加工かどうかの根拠にはなり得ない(加熱などの加工なしかどうかまでは特定されていない)と思います。

次に加工派の意見

意見1:淡い色のアメジストを2度加熱すると白濁し遊色が出るものがある(本に記載あり)
意見2:論文が出ているが、加工された後に研究者の元に持ち込まれている可能性もぬぐえない
意見3:実物を見ると、母岩のようすから、加熱の痕跡がうかがわれる
意見4:ミネレコ(ミネロジカル・レコード/海外の鉱物専門誌)に出てこない


羽ヒトデの色は何ですか

ここでも私見
意見3は、採集派石好きさんからお聞きした意見。
この意見を頭に置き、今回大量に登場したレインボー・クォーツを手当たり次第に手にとって思ったのは、この意見にも一理ある、ということ。
なぜならば、ウルグアイやブラジルのアメジストを見ると、母岩等に緑色のセラドナイトなどの鉱物の付着が見られます。同じような形状で似たような環境で結晶したと思われるレインボー水晶(インド産)では、これが見られません。母岩や付着物は茶色系。ウルグアイ~ブラジルの加熱シトリンのようすに似ているのです。
産地が違うので、決定的な根拠にはなり得ませんが、実際の石を見て感じた点は無視できません。

さらに、中間派というべき? こんな意見もあります。

●虹そのものは加工されて出たものではないが、色が濃くて見えにくかったのではないか。
 それが、人工的に加熱することで色が消え(薄くなり)虹がはっきり見えるようになったのでは?

ここで、現時点の私の考え。(全くの私見です)。
虹のメカニズムについては、漠然とブラジル式双晶との関わりを連想します。
そして(虹の仕組みとは関係なく)石そのものが加工か、未加工かについては、今回大量に登場したレインボー水晶については、加熱などの加工の可能性があるのではと思っています。
ただ、全てがそうとは言い切れません。
少数派レインボー水晶の中には、加熱の痕跡(と思われるもの、たとえば母岩の茶色っぽさなど)が見られないものもあるように思うからです。

まあ、勘違いの大間違いという可能性も大ですが……、ここまで来たらやっちゃえやっちゃえ。
好き勝手言いたい放題できるのが、素人コレクターの特権というもの。
さらに考えを進めます。

●産地
実はこれについても諸説あり。

ここであらためて、今回のレインボー水晶の登場過程を整理します。
まず、今年(2009年6月)の新宿ショーでひっそり初お目見えし(大々的に表に出していなかった)、まとまってデビューしたのはIMAGE2009(入荷は一店舗のみ)。
かのアホーアイト入り水晶に挑戦するような超強気値段にクラクラしていたら、今回池袋ショーでどどんと大量に登場(複数店舗)、手の届く値段まで何とか下りてきてくれた……というわけです。

実は、最初にレインボー水晶を紹介したお店ではインド産という以外、詳しい産地を聞くことができませんでした。
次にネット上でインドのカーヴィー産という情報が流れ、すぐいにカーヴィーは間違い、または集積地の名前で産地ではないといううわさが流れました。

そして今回見かけた産地名
インド産
Ajanta mine, Maharashtra, india(インド、マハラシュトラ州、アジャンタ鉱山)
Ajanta mine, Ellora, Maharashtra, india(インド、マハラシュトラ州、エローラ、アジャンタ鉱山
Madhya Pradesh(インド、マディヤプラデッシュ州)
Jalgaon(ジャルガオン)

これ以外の産地もあるという噂も聞こえてきましたが、その産地で実際に今回と同じレインボー水晶が出ているのか確認できていないので、ここでは名前を伏せておきます。

こういう場合、私は見つけた地名を地図に落としてみることにしています。
地図の上で位置関係を見ることで、わかってくるものもあるからです。

では地図で。

マハラシュトラ州、マディヤプラデッシュ州はインドのまんなかあたり。
このあたりは……忘れてはいけません。インドにはデカン高原があります。


デカン高原は白亜紀末期に噴出した洪水玄武岩で形成された溶岩台地。
デカントラップとも呼ばれます。
何層もの玄武岩の層からなり広さは50万km2、その厚みは何と2000m以上
玄武岩とは、簡単に言うと溶岩からできた岩。つまりデカン高原には50万km2×2000mの溶岩が吹き出したということになります。
形成された時期が白亜紀末期であることから、このときの火山活動、あるいはそれによって噴出したガスが恐竜絶滅要因のひとつになったのでは……という説があります。
また、この大規模な溶岩は、地球深部からもたらされたものと考えられています。

このデカントラップには前々から注目していたのですが、その範囲が地図上ではどのあたりになるのか、はっきり把握していませんでした。
この際だから調べてしまおう。

ついでに、レインボー水晶の山地として聞いた名前や、インドの鉱物の産地賭して聞くおなじみの地名も落としてみます。

…灰紫色のシミのようなものがデカントラップ……あふれ出した大量の溶岩かだらできた玄武岩の範囲です。
(注:調べる資料によって範囲の図は色々ありました。これは概要図としてご覧ください)

レインボー水晶の産地(と思われる場所)は、見事デカントラップのど真ん中!

なるほどなるほど。
この結果は、とても納得できるものでした。
やはりこの水晶には玄武岩が絡んでいたか。

というのも……思い出してください。レインボー水晶の虹のメカニズムについて発表された論文で、ウルグアイでも同じように虹彩を持つアメジストが見つかっていたという話を。

そしてこのレインボー水晶の形のを説明するのに引き合いに出したのは、ウルグアイ~ブラジルのつくつくタイプのアメジスト。
 

これらも玄武岩の中にできたアメジストだからです。
ここの玄武岩は遙か太鼓、パンゲア大分裂の際に吹き出した溶岩によるもの、つまりはデカン高原と同じ、地球深部からの溶岩だと考えられています。


(注:これもいろいろな資料を総合しましたが、正しいとは限りません)

玄武岩の中にできるアメジストは、比較的低い温度で結晶したと言われ、そういう水晶にはブラジル式双晶が多く現れるのだそうです。

どちらも、地球深部からの溶岩でできた玄武岩の中に結晶した水晶。
そこに「虹」が出る。
何か関連があるのでしょうか。

ひょっとしてウルグアイのアメジストは加熱すると黄色くなるけれど、インド・デカンの水晶(たぶんアメジスト)は加熱すると虹が出る、そんなオチだったら嫌だなあ。

想像や憶測で悩んでも仕方がないので、ここは後続情報待ち。

むしろ地球深部からもたらされた黒い岩がはぐくんだ虹の色……そう考えて楽しみます。

最後に、アジャンタやエローラは石窟寺院があるので有名な場所です。
なぜかと言えばここが大変な厚みを持つ硬い玄武岩からなるデカントラップだから。厚みのある玄武岩を川が削り、川沿いには玄武岩の崖が露出します。
(トラップとはスウェーデン語で「階段」の意味)
だから、川沿いに石窟寺院が造られることになった(作るのが可能な環境があった)と言うことなんですね~。

ちょっと気になるのは、地図で見る限りアジャンタとエローラはやや離れていること。
産地としてAjanta mine, Ellora,……と表記されうるものかどうか、やや疑問が残ります。

虹水晶記事いろいろ
◇虹幻想※ファントム状にレインボーが入ったもの
◇ドゥルージー・レインボー※レインボー水晶のドゥルージー版
◇虹水晶考・追加編
◇月虹※半濁レインボー水晶
◇月虹2※半濁レインボー水晶
◇出た!※人工蒸着レインボー水晶



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