2012年3月16日金曜日

超臨界水中でのソフトマター、コロイド科学

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我々が住む、圧力が1気圧前後の世界では、水は100℃で沸騰します。ところが深海のように圧力が高くなると、水の沸騰する温度も上昇し、深度100mでは180℃まで、深度1000mでは312℃まで沸騰しなくなります。ですから深海熱水噴出孔から吹き出す水の温度は、300℃を超えることもあります。それでは、世界で最も深い海の底(マリアナ海溝、チャレンジャー海淵、11,000 m)にまで行くと、水はいったい何度で沸騰するのでしょうか?

"いくら温度を上げても沸騰しない"が答えです。それどころか2200m以深では、水はいくら温度を上げても沸騰しなくなるのです。"沸騰"とは、水が液体から気体へと相転移することですが、374℃、218気圧以上の極限的な環境では、液体と気体の区別すら無くなり、水は超臨界流体と呼ばれる状態になるのです。このような極限環境下では、水の性質も大きく違います。例えば、水には塩がたくさん溶け、油はほとんど溶けません。ところが超臨界水中には、油がたくさん溶け、逆に塩はほとんど溶けなくなるのです。熱水噴出孔下や地殻内部の高温・高圧環境の水は、まさに超臨界状態にあると考えられます。このような高温・高圧の極限での水の中で起る物理・化 学現象が我々の研究対象です。


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1. 超臨界水中でのコロイド科学

右の写真は金のナノ粒子(直径60 nm)を水に分散したものです。金属、油、鉱物など水に溶けないものも、微細な粒子にしてやると、水に安定に分散することができます。このようないわゆる微粒子分散系(コロイド分散系)は、典型的なソフトマターであり、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、医用分野、食品、化粧品、塗料など、数多くの分野で用いられている重要な技術です。例えば牛乳は、直径数µm程度の微細な油滴が水に分散した微粒子分散系そのものです。

微粒子分散系は、また、地球上での物質輸送で重要な役割を果たしています。堆積物が微細な粒子として水に安定分散され、泥水となって長い距離を運搬されるプロセス(コロイド輸送)によって、毎年数十ギガトンもの堆積物が、河川から海洋へと運ばれています。それでは地殻内部や熱� ��噴出孔下など、高温・高圧水の中も、同じように濁っているのでしょうか?我々は、超臨界水の中では微粒子の振る舞いが通常とは全く異なることを、世界で初めて明らかにしました。最新の研究結果によれば、地殻内部の水は濁った泥水ではなく、澄み渡っているはずだと考えられます。これらの成果は、地殻内部や深海熱水噴出孔の高温・高圧水環境における地球化学プロセスの解決や、超臨界水を利用した新材料の創製に繋がると考えられます。


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2. 生命の起源

原始地球上での最初の生命が、深海熱水噴出孔のような高温・高圧環境で誕生したとの仮説があります。化学の視点で有名な研究に、無機物からアミノ酸ができることを示したミラーの実験があります。ところが、アミノ酸自体は、非常に単純な分子で、それだけで複雑な生命活動が起るわけではありません。アミノ酸がたくさん繋がってタンパク質となって、初めて様々な化学反応を触媒することが可能になるのです。このように分子からソフトマターへの変化は、生命の誕生に置いて極めて重要なイベントだったはずです。我々は、極限環境下におけるソフトマターの生成という視点から、深海熱水噴出孔環境における生命誕生の可能性を探っています。


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関連論文

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    Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Koki Horikoshi, Green Chem., 10 (6), 623-626 (2008).
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    Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Soft Matter, 3 (7), 797-803 (2007).
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  6. Dispersion Stability of Colloids in Sub- and Supercritical Water
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  7. Viscosity Measurements of Water at High Temperatures and Pressures Using Dynamic Light Scattering
    Shigeru Deguchi, Swapan K. Ghosh, Rossitza G. Alargova, Kaoru Tsujii, J. Phys. Chem. B, 110 (37), 18358-18362 (2006).
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    Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Koki Horikoshi, Chem. Commun., 2006, 3293-3295.
  9. A High-Temperature and -Pressure Microscope Cell to Observe Colloidal Behaviors in Subcritical and Supercritical Water: Brownian Motion of Colloids near a Wall
    Sada-atsu Mukai, Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Colloids Surf., A., 282-283, 483-488 (2006).
  10. Behavior of Colloids in Supercritical Water: An Attempt to Study Diffusion Coefficients Using Dynamic Light Scattering
    Rossitza G. Alargova, Kaoru Tsujii, Prog. Colloid Polym. Sci., 126, 134-138 (2004).
  11. 極限環境下の水とコロイド科学
    出口 茂、表面41, 307-316 (2003).
  12. Flow Cell for in situ Optical Microscopy in Water at High Temperatures and Pressures up to Supercritical State
    Shigeru Deguchi and Kaoru Tsujii, Rev. Sci. Instrum., 73 (11), 3938-3941 (2002).
  13. Reaction Behaviors of Glycine under Super- and Subcritical Water Conditions
    Dimitar K. Alargov, Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Koki Horikoshi, Origins Life Evol. Biospheres, 32 (1), 1-12 (2002).
  14. Dynamic Light Scattering Study of Polystyrene Latex Suspended in Water at High Temperatures and High Pressures
    Rossitza G. Alargova, Shigeru Deguchi, Kaoru Tsujii, Colloids Surf., A., 183-185, 303-312 (2001).

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